日本工業炉協会50周年時の寄稿メッセージ
「一隅を照らす」 ───工業炉の未来に向けて
海外、特に発展途上国で現地製作などを含めた仕事をすると、部品・資材等の調達に難儀するのは一再ではない。とりわけ日本での経験が長い人ほど、事態は深刻で、特に感情的な反発からその国が嫌いになることすら起こってしまう。
しかし考えてみると、どんなものでも、いつでも、欲しいときに、ほとんどあらゆる資材、工業製品が入手できる日本が世界的に見ても、極めて例外的と言える。これは狭い島国に1億2千万人以上がひしめき合い、長い鎖国していたことに原因を見出すこともできるかも知れない。
それはともかく、何でも欲しいものが水準以上の品質でいつも入手可能、ということは、それらを製造する多岐にわたるプロセスが存在し機能しているという社会経済的なシステム、または構造によるものである。
日本の工業炉業界は、間違いなくこのシステムを支えている不可欠の要素である。業界の規模としては、全部合わせても10数億ドル程度の極めて僅少なマーケットであるが、専門性の高い知識集約的な分野でありかつ製品のバリエーションは驚くほど多岐にわたる。勢い一部の例外を除けば各社の売上規模も中小企業の範疇を越えるものではない。
このことは「どんなものでも、いつでも、欲しいときにほとんどあらゆる資材、工業製品が入手できる」ことと表裏の関係がある。
50週年の現時点で協会の会員数は110社を超えている。この数は何年にもわたって大きな変化はない。このことは会員各社がそれぞれの専門性を活かし多岐にわたる顧客のプロセスに合致する多種多様な工業炉を継続して提供している事を示している。大から小までどんな種類の工業炉も供給できる会社は存在しない。その意味で会員各社は「何でもある」経済社会構造の中で、それぞれが「一隅を照らして」おり、全体で集まって日本のものづくり社会を明るいものにしている。
もちろん我々は常に激しい競合に遭遇している。特に顧客の予算という強敵に出会うことも少なくない。経営者はそれに時として折れそうになることもあるが、翻って考えると、これらはむしろ易きに流れず、常に自らに質的成長を促すドライビングフォースと考えれば、自社にとっても悪いことではない。さらに我々の切磋琢磨と努力が、顧客の成功に繋がるのであれば、それこそ我々が真にめざすべき「顧客への貢献」「顧客の創造」の中身といって良い。経営理念に謳うところの「人類社会への貢献」の具体的一歩であろう。
一方協会の50年という過去を振り返ってみると、その変化には目を見張るものがある。おそらく今後の50年は更に思いもかけない変化が起こってくるものと思われる。しかし我々として変えるべきでない原則的な理念は、各社がそれぞれ自らを磨いて「一隅を照らし」、幅広い顧客を通じて「持続的可能な人類社会への貢献」をしていくことであろう。